7月になってしまった
暑くて寝苦しくて, 夏が来たことを実感させられる。すっかり夏バテである。もう7月になってしまったのだ。1月に立てた目標はあらかた達成の目処が立たずに忘れられ, いつもの通り焦燥感にかられている。
といっても, それは夏に限ったことじゃない。私は季節の変わり目になれば体調をくずし, 夏には食欲が失せ, 冬には喉風邪を引く。目標に向かって突き進むより, できない自分を省みて歎息することの方が多い。
つまりはいつも通りだ。
金曜日の夜ということもあって, 六本木はすごい人だった。綺麗に着飾った女の人が目に入る。合コンだろうか, デートだろうか, それとも仕事だろうか。プロを見分けることは簡単だ。売れる容姿があるかないかですぐわかる。それは美人かどうかとは直接的には関係ない。きちんと手入れされた盆栽と, ただの鉢植えの違いみたいなものだ。すなわち, 売れるように手をかけられているかどうかが問題なのである。
昔, 働いていた六本木のキャバクラにいた女の子たちは, そのあたり抜かりがなかった。
着ているものは大抵Snidelとか,そういうありふれたブランドなのだけれど, お金をかけられるおかげに組み合わせに妥協がないことと, 顔とスタイルが良いせいで余計におしゃれに見える。
これに私はどうしても慣れなかった。高いインポートもののモードの服を着ている普段より, たまに着ているありふれたぺらぺらの花柄のワンピースの方がうけが良かったりした。
そういうことは私のプライドをひどく傷つけた。まあ, プロ意識が足りないのだ。
キャバクラ嬢だったとき, やたらと褒められた服があった。それは紺色の綿のノースリーブワンピースで, ウエストできゅっとしまっていて, 膝丈くらいの長さであった。
私はそれをユニクロで買って普段着にと思って着ていたのだけれど, 思いの外評判が良かった。ちょうど体型にあっていたんだろう。
あのワンピースはワンシーズンでぼろぼろになって捨ててしまったが, この夏ほとんど同じデザインのものを見かけて買った。といっても, もう褒めてくれるひとはいないし, というか褒められたら人事にセクハラでつきだすのだけれども, あいかわらず, 着心地が良い。
袖を通すたびに昔のことを思い出す。
あのワンピースを着ていたとき, ちょうど就活中で, なんとか小さなコンサルティングファームに拾ってもらった。その会社は, 働いていたキャバクラから歩いてたった10分のところにあって, 私は面接が終わってからそのまま出勤した。
昔は, 場に似つかわしくない学歴だからという理由だけでちやほやされたけれど, それが当たり前の世界に行き, そして, まったく価値を失ってしまった。
ただの平凡な人間になったことが惜しくもあり, 幸せでもある。